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2024年度 特待生レポート [前期]

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加藤 楓(かとう かえで)
加藤 楓(かとう かえで)
第68期マスタークラス(鹿野由之クラス)
学生時代のオペラ実習は、パンデミックの影響によりリモートで開始され、その後もマスクとパーティションが必須の環境で行われた。このような条件下では、歌唱や表現に限界を感じていた。マスクやパーティションが外れた後も、内向的な感覚が残り、こぢんまりとした仕上がりにコンプレックスを抱いた。大きな舞台に挑むには、より試行錯誤する環境が必要だと感じ、二期会オペラ研修所への入所を決意した。研修所では、自分に必要な要素を見出し、どのようにアプローチすべきかを模索している。

前期の研修では、R.シュトラウス作曲『ばらの騎士』の銀のばらの献呈シーンでゾフィー役を演じた。R.シュトラウスのオペラに挑戦するのは初めてであり、多くの困難を感じた中で、指揮者の佐藤宏充先生や演出家の澤田康子先生、声楽の先生方からの指導が大きなヒントとなった。佐藤先生からは、言葉のリズムやアクセントを正確に扱うこと、子音を明確にすることで意味や感情を伝えること、音楽のテーマに応じて演技や表情を調整することの重要性が強調された。特に前半と後半で音楽や状況が異なるため、演技や歌唱のスタイルも変える必要があり、後半のワルツではゾフィーの若さを表現するために音楽に遅れずに合わせる感覚を掴むことが求められた。

演技においても、エネルギーを持続させることが難しく、大ホールで演じることを前提とした表現が求められた。澤田先生は具体的なアドバイスを通じて、キャラクター構築の問題点を的確に指摘してくださった。全ての役に応用できるアイデアを提供してくれたが、最も重要なのは、オペラ歌手として歌がしっかり歌えることが前提であり、演技や動きによって歌が疎かになるべきではないとの教えであった。自身は技術が未熟であることを痛感しながらも、何を磨くべきかが見えてきたことは大きな発見であった。

声楽の先生方は、オペラ歌手としての適応方法や体や顔の使い方、言葉の捌き方について具体的なアドバイスをくださり、相談にも応じてくれた。その優しくも厳しい指導に感謝している。

また、研修所での学びは、自身だけでなく同期たちへの指導を通じて得られることも多かった。他の研修生が受けている指導や取り組み方を見ることで、自分の課題や改善点がさらに明確になり、学びが深まった。同期たちとの交流は、自身の成長にもつながり、より良いオペラ歌手を目指すための貴重な経験となった。

マスタークラスからの入所であるためまだ短い期間ではあるが、前期の研修を通じて非常に有意義な経験を積むことができた。今後も研修所での学びを吸収し、オペラ歌手として自信を持って修了できるよう、引き続き努力していく所存である。
川合真桜子(かわい まおこ)
川合真桜子(かわい まおこ)
第68期マスタークラス(大野徹也クラス)
私は第66期の予科・本科に特待生として在籍しておりましたが、二年間の休学を経て、第68期マスタークラスに特待生として復学いたしました。第66期として入所した当時は、新型コロナウイルスが流行りだした1年目で多くの制約がありました。二年間の休学を経て、戻ってきたマスタークラスの現在は、通常の授業を行うことができています。

特待生制度は、予科から本科、本科からマスタークラスに進級する際も、私のように休学した後に復学をする際にも、必ず外部から編入される方と同じ試験を受ける必要があります。私は歌だけではなく、プロのダンサーとして活動をしていたこともあり、経済的な不安が常にありました。その負担を少しでも減らしたい、音楽に多くの時間を費やしたいという思いから特待生制度に出願し、大変光栄なことに三年間特待生として通わせていただけることとなりました。現在は音楽に没頭できる日々を過ごしております。

研修所では声楽指導の先生や演出の先生、予科の後期からは指揮の先生が加わり、オペラの現場を知る多くの先生方にご指導いただき、オペラの現場に近い環境で学ぶことができます。また身体表現の授業や原語指導など充実したカリキュラムが整っています。

マスタークラスの前期はドイツ・オペラ、フランス・オペラ、近現代の英米オペラからいくつかの作品を取り上げます。私のクラスでは『ヘンゼルとグレーテル』『ウィンザーの陽気な女房たち』『電話』『ラクメ』『ロメオとジュリエット』『カルメル会修道女の対話』『アラベラ』が取り上げられ、私はリヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ『アラベラ』より題名役をいただきました。リヒャルト・シュトラウスの音楽は大学生の時から魅了されており、リートは勿論のこと、オペラ『ばらの騎士』よりゾフィーとオクタヴィアンの重唱などを学んでおりました。『アラベラ』もとても美しい音楽ではありますが、譜読みから暗譜にかけて言葉もリズムも音も大変難しく、音楽と一体化するまでに多くの時間を費やしました。私自身の課題である「出した音を聞いてしまう」ことが何度も起こり、息が流れず苦しんだ時もありましたが、楽譜上の観点や身体的な観点などからたくさんのアドバイスをいただき、少しずつ授業内で改善することができました。

中期はオペレッタを日本語で取り上げます。日本語で歌うことに加え、台詞やダンスなどもご指導いただきます。前期で学んだことを十分に活かし、さらに多くのことを吸収したいと思います。いつも見守り、応援して下さっている皆様に心から感謝申し上げます。引き続き精進してまいります。
岡田七海(おかだ ななみ)
岡田七海(おかだ ななみ)
第69期本科(萩原 潤クラス)
私は昨年度、桐朋学園大学大学院修士課程オペラ専攻を修了し、今年度より研修所の本科に特待生として入所し、勉強させて頂いております。

学部時代のオペラクラスと、大学院の声楽特殊研究にて、4年間オペラの基礎からご指導頂いておりましたが、将来オペラの舞台に立つという夢に向け、今まで触れてこなかった作品や新たな作品に挑戦し、二期会オペラ研修所の恵まれた環境で、自分の音楽や課題と向き合いながら、更にオペラを学びたいと思い、研修所の入所を決めました。

研修所では、現役でご活躍されている素晴らしい講師の先生方から、発声や歌唱の際のテクニックなど、音楽のことはもちろん、演者として役を演じる際の心構えや美しい所作、作品との向き合い方、プロの音楽家としてのあるべき姿など、様々な事をご指導頂いております。第一線でご活躍されている先生方が、実際の現場で感じられたことや、舞台との向き合い方、音楽の作り方などを、様々な立場からご指導くださるため、大変勉強になります。私の在籍している夜クラスでは、主任の萩原潤先生をはじめとする先生方が、情熱的で熱心に、研修生一人一人に寄り添ったご指導をしてくださいます。素晴らしい先生方のもと、様々な環境で学んできた魅力あふれる同期と、互いに切磋琢磨し合いながら、大好きなオペラを勉強させて頂ける幸せを日々噛み締めております。

本科の前期カリキュラムでは、邦人作品に取り組み、私は、團伊玖磨作曲『夕鶴』のつう役を演じさせて頂きました。邦人作品は、初めての挑戦で、和服の着付けから和物の所作、邦人作品ならではの音楽の難しさ、そしてつうというキャラクターの演じ方、何もかもが初めての経験ばかりでした。

初回の授業では、伊奈山明子先生から、和物の足の運び方や立ち方、構え方などの基本的な所作と着付けを、一からご丁寧にご指導頂きました。その後、初めは慣れない和服でのお稽古に、歌いにくさや動きにくさを感じ、大変苦戦しましたが、お稽古以外に、自宅でも着付けを繰り返し練習し、日常生活の中でも和物の所作を意識していくうちに、少しずつ綺麗に着付けができるようになり、所作も体に馴染むようになっていきました。

そして、細かな所作や足のかけ方、歩き方全てに気を配り、その変化で感情を作ることによって、いかに自分を美しく魅せながら、つうの心情や性格を表現できるかを研究し、邦人作品 独特の音楽の和声感や、曲の作り方、日本語の言葉さばきについても、先生方に細かくご指導頂き、勉強を重ねました。
また、今回『夕鶴』という作品を通して、先生方から頂いた様々な講評の中で、私の中での一番の課題は、感情を頭で作るのではなく、作った感情を自分自身で感じ、心から表現するということでした。お稽古の中で、「喜びや怒りといった感情を決めて演じているだけでは、何も伝わってこないし、つまらない演技でしかない。抽象的な言葉で楽譜に書き込み、それを言葉に出して演技をしてみてから歌いなさい。」と言われ、つうの感情や気持ちを、自分の心の内側から実際に感じ、言葉を生み出すことによって、心から感情のこもった演技ができるということを実感しました。そしてその感情を、舞台上でむき出しにして表現し、気持ちをぶつけることの難しさと、楽しさを痛感しました。

初めてのことばかりで悩むことも多かったですが、お稽古を繰り返す度に、自分の中での課題が見つかり、その課題を改善し、つうを演じる中でどのように自分に落とし込むか、試行錯誤していく過程がとても楽しく幸せで、『夕鶴』という作品と、そして自分の音楽と向き合ったこの3ヶ月は、大変勉強になり、とても有意義な時間でした。

本科の前期後半では、ベルカント作品に取り組みます。ベルカントは大好きな作品ばかりで、ベルカント・オペラの美しい音楽に浸りながら、邦人作品で学んだことを活かし、更にオペラの基盤を学び、自分の声と音楽、そして新たな役の演技と向き合えること、勉強させて頂ける事が、今からとても楽しみです。

このような環境で学ばせて頂けていることに感謝し、限られた時間の中で、自分自身と真摯に向き合い、どんな時も謙虚に自分らしく、精一杯精進して参ります。
早川 愛(はやかわ あい)
早川 愛(はやかわ あい)
第69期本科(萩原 潤クラス)
私は今年度から研修所の本科に特待生として入所させて頂いております。東京藝術大学の声楽専攻で4年間勉強したのち様々なコンサートなどで演奏する機会をいただいておりましたが、まだまだ自分の知識や技量に関して足りないと感じるところが多く、一流の場所でオペラをもう一度基礎から学びたいと思い入所を決めました。

また知識や技量の面だけでなく、本番の緊張に弱いということも自身の大きな課題でしたが、この問題に関しては特に今まで色々と試行錯誤していながらもなかなか克服することが出来ずにおりました。どうすれば克服出来るようになるのかと自分に問い続けた結果、今の自分に最も必要なものは、常に緊張感の中歌える場所と、インプット・アウトプットをどちらかのみに偏ることなくひたすら繰り返すことのできる環境だと感じました。その点において、まさにこの二期会オペラ研修所は私にとって理想の場所でした。本科からの入所を決めた理由としては、将来ベルカントのオペラを中心として舞台に立ちたいという目標があるため現在練習しているレパートリーの役を更に深く勉強したく、まさにベルカントものを中心に授業してくださる本科が今の自分には一番合っていると思ったからです。

講師の先生方は日本のオペラ界の第一線でご活躍されている素晴らしい先生方ばかりで、日々厳しくも愛のあるご指導をいただいています。他の研修生の皆さんもひとりひとりがそれぞれの志を持って入所されており、授業の度に技術・表現の面においてパワーアップしている仲間を見るのは本当に良い刺激になります。

さて、前期の邦人作品の授業では私は『夕鶴』のつうの役をいただきました。授業は毎回浴衣で行われるため、その度に自分自身で浴衣の着付けをします。クラスの仲間とお互いの着付けを確認し合いながら、授業の度に少しずつ素早くそして上手に出来るようになっていく実感がありました。所作に関しては普段ドレスを着ている時と全く違う筋肉を使いながら歌う感覚になかなか慣れず苦労しましたが、教えていただいた足の運び方、座り方や立ち方、ふらっとした時の倒れ方、それから物を触る時の手の運び方など、一つ一つの動作に日本の美学が詰め込まれていることを感じ、授業中は母国の伝統の美しさ・尊さを再認識できる時間でもありました。また日本語の発語の方法に関しても、例えば鼻濁音や無声音に関することなども細かくレッスンしていただき、言葉をきちんと客席に届けるための多くの新しい学びを得ました。

私が研修所の授業を受ける上で一番大切にしていることは、「1度言われたことは次までに必ず直す、それが自分にとってどんなに難しい課題である場合でも前回のままの状態では持っていかない」ということです。一見当たり前のことだと思われるかもしれませんが、研修所に入って改めてこの基本の心構えこそが成長のための最も重要な態度であると痛感しております。先生方は声や技術のことだけでは無く舞台人としての心構えについても大変熱心にご指導くださいます。一回一回の授業では自分が歌っている時のみならず全てが学びの時間で、吸収したいことがあまりにも多すぎるために頭がパンクしそうになることもしばしばですが、この環境がどれだけ幸せなことであるのか、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。これから取り組むベルカント作品でも、更に向学心を持って精一杯取り組んでいきたいと思います。
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