STORY
黄金の雨に変身し、処女ダナエと交わる主神ユピテル。触れる物すべてを黄金にしてしまう王ミダス。これらふたつの神話を素材にして、ふたつの話が絡みあう。
破産寸前の国の王女ダナエは、天からの黄金に愛撫される夢を見、その幸福感が忘れられない。そこに国の窮乏を救う婿として到着するミダスは〈王の使者〉に変装し、また、ダナエを物にしたいユピテルは〈王〉に変装して現れるが、ダナエは本物のミダスの真実の思いを知り、ミダスを結婚の相手として選ぶ。それを知ったユピテルはミダスに取引を持ちかける。自分の授けた位と富を選ぶか、それとも、愛を選び、元の貧しい驢馬挽きに戻るか。
話のひとつは純愛物語。〈黄金〉への執着を離れ、打算の結婚を捨てたダナエがミダスへの真の〈愛〉に目覚めてゆく話。またひとつは〈恋の鞘当て物語〉にして〈老いらくの恋物語〉。みずからが授けた金変容の呪力と王位を失おうとも、ダナエへの愛を貫こうとする若いミダスを前にして、老権力者ユピテルは己れの無力と滑稽さとを思い知る。妻ユノーらオリンポスの神々に嘲笑されながら、最後に今一度ダナエを訪ねるが、見分けてはもらえず、〈ご老人〉と呼ばれていたわられるばかり。(檜山哲彦)